2025/11/23

まだまだ続く熊の脅威

  前回に続き、「熊の出没被害」について考えます。

 熊は冬眠する動物、冬になれば出没は減るのでしょうか。答えは「NO」です。

 研究者によると、近年は冬眠しない「穴持たず」の熊が増えているそうです。冬でも人里に食べ物があるので「冬眠の必要なし」ということです。となると、12月以降も各地でクマが人を襲う恐れは十分あり、まだ警戒が必要です。

 「穴持たず」は攻撃力が高く危険。前回取り上げた大正4年(1915年)12月、北海道苫前町で起きた「三毛別羆事件」の羆も「穴持たず」と言われています。

 熊被害がなぜ多発するのでしょうか。既にニュース解説や研究者の報告で数多く指摘されていますが、素人ながらに要因をまとめてみました。

 直接要因として、研究者らが指摘するのは「熊の主食のブナなどドングリ類の凶作」です。次に中長期的要因として鳥獣保護政策と狩猟者減少による熊の個体数の増加、里山の荒廃、都市開発による住宅地の拡大など人間生活圏の変化——が挙げられます。

 それでも、「なぜ熊は人を襲うまで狂暴化したのか」という疑問が残ります。「エサ不足で飢餓状態にあるから狂暴になる」など諸説ありますが、いまひとつ、はっきりしないのです。 今秋は人間が複数で行動していても襲われ、あるいは最初から意図的に人を狙って攻撃する事例も発生。「特定の個体の特異な行動なのか」「熊に人間への警戒心がなくなっているのか」、よく分かりません。

 2019-23年に北海道東部で、「OSO18」というコードネーム(発生場所の標茶町オソツベツ、幅18cmの前足跡から命名)を持つ羆に放牧牛66頭が襲われ、酪農家を震撼させる事件が起きました。テレビなどで報道されたので、ご存じの方も多いはず。「OSO18」は警戒心が強く、罠にも掛かからず、4年近くも追跡をかわしながら「犯行」を重ね、最後は地元ハンターに偶然仕留められました。

 この時、言われたのは、この個体は増え続けるエゾシカの死骸を食べて食肉の味を憶え、牛の襲撃を繰り返したのではないか、ということです。

 本州でも近年、増え続ける鹿や小動物をエサとして捕食、肉食の味を知った熊が増えた、との指摘があります。加えて中長期要因①で指摘される「狩猟者の減少」があります。「狩り」で人間に殺されることが減り、人間への警戒心を持たない熊が増えたのではないか、ということです。人間を襲う「狂暴化」の理由として、これが一番妥当な答えかと思います。

 熊の被害急増が一挙に社会問題となったことで、政府、自治体も対応に追われました。自治体首長の判断で市街地でも猟銃を発砲できる「緊急銃猟」の制度もつくられ、熊の捕獲、駆除が強化されています

 熊の駆除に自衛隊の出動まで求める声も出ました。自衛隊の武器は当然ながら「人間相手の戦闘」に使用するものなので、熊相手は法律的にも難しく、結局は後方支援だけです。 

 そこで「人の命と安全を守る」警察の出番となりました。警察庁の動きは素早く、特殊銃(ライフル銃)を熊の駆除にも拡大できるよう国家公安委員会規則を改正、関東の銃器対策部隊が被害地域に派遣されました。

 東北の地元では応援部隊を歓迎していますが、地元ハンターからは心配の声も上がっています。「住宅街の広いところで、うろつく熊には対応できるが、物陰から急に飛び出す、または猛スピードで向かって来る熊にはとても対応できない。経験がないと無理」ということです。

 「警察のライフル部隊はハイジャックなど凶悪犯を制圧する訓練は受けていても、素早い動きの動物を射殺するのは慣れていない。撃ち損じでもすれば、社会的な批判も大きい。リスクの多い任務です」(元警察幹部)との指摘もあります。

 警察の応援部隊がいつまでも現地に常駐できるかも分からず、警察や地元ハンターによる駆除作戦は、人身被害を食い止めるための緊急避難的な措置。いずれ、「生息個体数の見直し」をせざるを得ず、結局は専門のハンターを急いで育成することが必要でしょう。

 熊被害の急増は、これまで指摘したように、過疎化などで日本人の社会生活、土地利用などが変化、また気候変動など自然環境が変化するなど様々な要因が絡み合って起きていると言えます。

 要するに地方で人々の営みが縮小、山や農地が荒れてしまったのです。木こり(木の伐採)やマタギ(狩猟者)も今や職業として存在しない時代。そこに鳥獣保護政策も加わり、山や市街地で、野生動物が「我が物顔」に動き回る状況になったのですね。

 森林、里山など自然環境を元に戻すのはもはや不可能です。でも、このまま放置すれば、熊が「野良犬」のように、街中を日常的にうろつくことになります。どうすればよいのか。熊の出没問題は、日本の地方が抱える多くの問題を私たちに突き付けているのかもしれません。「国家レベル」での長期的な取り組みが必要だと思います。   (有道)