2026/06/21

白いイチゴ初めて食べた

  5月のある晴れた日。急に思い立って富士山へ行って来ました。白い冠雪が残る富士は、浮世絵のような優美な姿を見せていました。

 澄み切った湧水で知られる忍野八海は外国人観光客であふれるほど。一人の男性旅行客にスマホで写真の撮影を頼まれました。富士山を背景に「白いイチゴ」のパックを手に持つ姿を撮ってほしいと言うのです。

 「富士山と白いイチゴ」という構図が面白い。アングルを変えながら5、6回シャッターを押しました。撮影を終えて「白いイチゴは珍しいですか」と声を掛けると、「聞いてはいたけど、初めて見ます。日本人はすごいもの作りますね」と言いながら、「あなたもどうぞ」とイチゴのパックを差し出します。

 「僕はアメリカのボストンから」「私は東京からです」と握手。彼は30歳代前半ぐらいでしょうか、一人旅のようです。ファーストネームを名乗り、初対面ですぐに打ち解けるのはさすがにアメリカ人です。

 「仕事は何をしているのか」と聞くので「仕事ではないけど、時々フードバンクのボランティア活動をしている」と答えると、「それはすごい。今、アメリカでもフードバンクが増えていますよ」と言います。

 「アメリカはインフレ、物価高で、年収10万ドル(1,600万円)でも貯金できない、というのは本当ですか」と聞いてみると、「そうです。物価高騰のペースが早すぎて収入が追いつかない。住宅費、食料、ガソリン代などトランプ政権になって物価高が進み、貧富の格差がさらに広がっている」。「日本はアメリカほどひどくないでしょう?」「いやいや、日本も確実に格差が広がっています」といった話になりました。

 「でも、日本と比べるとアメリカは高収入と言われていますね。大学を出たばかりのAI技術者が、就職の雇用条件として年収100万ドル(1億6,000万円)の報酬を要求すると聞いたけど、本当の話?」「いや、それはひと握りの特別な才能を持つ人。ふつうのAI技術者は平均年収10万-20万ドル(約1,600万ー3,200万円)。大学卒業したばかりだと年収5万ドル(800万円)程度かな。実は、僕もAIエンジニアなんです」

 AI革命と言われ、これからはAIがすべてを支配する時代。米国でAI技術者の彼は「将来に不安もなく恵まれた人生」のように見えました。でも、話を聴くと、そうでもないようです。

 「今のアメリカは実利一辺倒、カネ、カネの世界。あの人(That man )が大統領になってからアメリカは完全におかしくなった。国が分断され、何が本当か信じられない社会。トランプ一族の疑惑が次々と明らかになっても、国民もメディアも慣れっこになって怒りもしない。社会正義など消えてしまった」。そして「自分もアメリカ人としてのプライドを持てなくなった」と言います。

 彼は恐らくアメリカ東部のエスタブリッシュメントなのでしょう。ここはリベラル色の強い土地柄です。だから、でしょうか、反トランプの発言(注1)がポンポン飛び出します。ベンチに腰かけ、「白いイチゴ」を2人でつまみながら、静かな口調ながら彼の話は止まりません。

 時計を見ると半時間が過ぎており、「あっ、大変。バスの時間があるので行きます」と言って立ち上がりました。翌々日には日本を離れ、ベトナムへ向かうそうです。最後に「休暇中ですか」と聞くと「今はパソコン1台あれば、どこにいても仕事ができる。世界中にオフィスがあるようなもの」だとか。なるほど、今はそういう時代なんですね。お互い「グッドラック」と言って別れました。

 偶然出会って、束の間の歓談。中身の濃い不思議な時間でした。   (有道)

 (注1)シリコンバレーのテック企業は以前は民主党支持だったが、今はトランプ支持に。 

📷 忍野八海から見る富士山 

📷 白いイチゴは高級フルーツの味