2026/05/17

クルーズ船で感染症

  地球上の「地の果て」はどこか、と聞かれれば、迷うことなく「南米大陸最南端のフエゴ島」と答えます。

 南緯54度、西経69度に位置するこの島は、1年中雪に覆われた2,000m級の山々が迫り、荒涼とした風景が広がります。夏でも強風が吹き荒れ、島の北側を大陸と隔てるマゼラン海峡は航海者にとって難所中の難所、昔から数々の船が難破し、「船乗りの墓場」と言われて来ました。周辺の島々にはペンギンとアザラシが群れ、さらに1000キロ南下すると、南極大陸に到達します。

 5月に入って「ハンタウイルス感染」のニュースを聞き、30年ほど前、この地を訪ねた時の記憶を想い起こしました。感染の舞台となったクルーズ船「ホンディウス」が出港したのが、このフエゴ島(注1)の街 ウシュアイア(注2)でした。

 南米アルゼンチンでは昨年から「ハンタウイルス・アンデス型」(注3)の感染が拡大していると伝えられており、今回の集団感染の報に「またか」と一瞬、不安が頭をよぎりました。4年前の新型コロナウイルス世界的流行(パンデミック)の記憶がまだ新しいからです。

 通信社の報道などによると、このクルーズ船は4月1日に28か国、約150人の乗客・乗員を乗せて、ウシュアイア港を出発。南極圏や大西洋を航海中に乗客の感染が確認され、9人が感染、疑い2人、3人が死亡する事態(JST5月14日現在)となりました。

「クルーズ船で集団感染」と聞くと、日本のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」を思い出した人も多いはず。新型コロナウイルス感染の発生後、横浜港で乗客を長い間、船内隔離し、大量の2次感染者を出したケーズです。

 この反省を生かしたのか、今回の「ホンディウス」の各国対応はかなり素早かったようです。スペイン政府が乗客の下船受け入れを決め、5月10日、最終目的地のスペイン領カナリア諸島テネリフェ島で日本人一人を含む乗客全員が下船、検疫の後、それぞれ急派された航空機で本国に移送され、経過観察・隔離されたと言います。

 感染源は、クルーズ船乗客がフエゴ島で接触した陸上動物ともいわれますが、詳しくは確認されていません。世界保健機関(WHO)は、ハンタウイルスは潜伏期間が長いので警戒が必要としながら、各国内で感染拡大するリスクは低いとして冷静な対応を呼び掛けています。

 WHOが言う通り、今回の「ハンタウイルス集団感染」に私たちは過剰反応する必要はありませんが、「感染症への警戒を常に怠らず」との自覚を再認識する良い機会になったと思います。

 厚労省によると、新型コロナ感染症は今でも日本で年間推計3万5000人以上が死亡(2024年)しています。規模は縮小傾向、マスクをしている人も少なくなりましたが、決して「終わった感染症」ではない、ということです。

 2019年12月に最初の感染が確認された新型コロナウイルス禍による死者は。世界で推定1,590万人(WHO)に上ったとされます。日本に住む私たちも親族や知人を失い、失職、休職など経済活動の停滞は弱者の生活を直撃しました。私たちフードバンクが食料支援する家庭で進学を断念した子どももいました。

 あのような辛い経験は2度と繰り返してほしくない、特に子どもたちには経験させたくない、と誰もが思うでしょう。

 今回のハンタウイルス感染でも、世界中でSNSなどを通じて偽情報、偽動画・画像が流れ、不安を煽っています。困ったものです。偽情報に踊らされず、冷静な対応が求められます。      (有道)

(注1)西側ほぼ半分がチリ領。東側がアルゼンチン領。

(注2)世界最南端の街。古くは、日本の網走と同じく政治犯、重罪犯の流刑地。大きな刑務所跡が今も残る。30年前は人口3万人。今は観光、移住者が増えて8万人。

(注3)ネズミなど、げっ歯類動物が持つウイルス。感染すると、「ハンタウイルス肺症候群」を発症、重症化で呼吸不全を起こし致死率は40~50%に上る。

📷 ウシュアイアの街

📷 クルーズ船「ホンディウス」